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文字の洪水に溺れながら

人生初心者、でも人生のハードモードぐらいを生き抜きたい人間。

空気をもつ小説を読む楽しみ

最近、実用書の類ばっかり読んでいたので久々にエンタメとしての読書という事で。

「おおきくなりません 白倉由美

引きこもり暦10年。家でひっそりと僕の帰りを待ち続けている同居人の麻巳実(まみみ)を、僕は誰よりも大切に思っていた。でもその麻巳実がある日突然「女子大生」になってしまった!しかも本当は三十五歳なのに「今日から私、十八歳」などといいだして・・・!?
いろんな傷を抱えながらも、少しでも「おおきく」なろうとする不器用なふたりのお話

この紹介文だけで判断するととても軽い電波系ラノベなんですが、ところがどっこい読み始めると全くそのかけらもありません。てか一番下の文だけのほうが雰囲気表してる。笑いが無いというわけではないんだけども、萌え系ラノベとは笑いの質が違います、強いて言うなら、アハハという笑いよりも猫鍋を見てニコッとする感じですね。
今調べてみた感じだと、作者は元少女漫画家という事でとても納得。こういう感性的なストーリングの上手さは少女漫画家はぶっちぎっている人が多いよね。

小説における空気

僕は物語ごとにその世界を作り出す空気が匂いたつ物ほど幸福な読書経験ができます。
カイジをはじめとする福本作品然り、とにかく貪欲にエンタメのみを追求する西尾維新然りです。
空間を作成している空気、もしくは匂い、これがどんぴしゃと嵌った時、それはもう空気麻薬と同等の効果を発揮します。いつまでもその空間に浸っていたくなる。ページをめくる手が止められないけれども終わりが近づくにつれ悲しくなる。こんな幸せな経験なかなかありませんよね、だからこそ読書はやめられません。

ちなみに僕が感じたこの作品の匂いは「停滞」です。
停滞、格好いい響きですよね、こういう意味もなく格好がいい言葉は大好きです、勿論カッコいいとはまた別の意味ですよ。

閑話休題

停滞ってマイナスイメージの言葉ですか?
僕は人間として生きていくうえで(特にこの頃)成長欲求があるので、止まるって事がマイナスイメージなんですよね、だけれどもこの作品の匂いに犯されていくうちに止まる事を選択するという生き方も素敵だな、と考えていました。

というのも、この話の序盤では明らかに主人公達が「おおきくなれない」事を描いているんですが、後半になると主人公達が自分達の意思で「おおきくならない」事を描いているんですね。だからこそ題名は「おおきなりません」であって「おおきくなれません」じゃないんです。
この、一文字の違いを認識できる言語間に生きている事は本当幸せに思えます。
もっとも知識がないだけで英語だってちゃんと勉強すれば身につくのでしょうが・・・。

なんというか、実は僕は常に前進する事が人生の幸福な歩み方と思っている節があったんですが、それは間違っていたのかなぁとちょっとへこんだりもしています。きっと、自分の生き方を自分で選択していく事(たまたま今までその選択が前進が多かったというだけ)という考え方のほうがより真実に近いのかもしれません。

とにかく、止まっていく事を選択していく空気がたまらなく愛しく感じる一冊です。
少女漫画が好きな方は是非どうぞ、

私的メモ
白倉由美との内縁(?)関係が大塚さん。どおりで広告に大塚作品がプッシュされてるわけだ。