文字の洪水に溺れながら

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文化人類学って何?&その授業のレポートを晒すよ〜!

文化人類学って?

今学期は人類学の文化人類学の初期の授業を取ったので、最終的に提出したレポート(ミニエスノグラフィー)と共に、自分の中での文化人類学のイメージを記します。

まず人類学っていうのは今のところ以下の4つの分野に分けられているみたいでした。簡単な説明付きで書いときます。

1、形質人類学
生理的な側面から人と他の動物を分けている物を探求する学問。脳味噌の容量とか骨格の研究とかそういう事をしているらしい。
2、文化人類学
人間の生活様式全体(生活や活動)の具体的なありかたを記述している学問。現地の文化に寝泊まりして本書きましたとかはだいたいこの研究者。
3、考古学
発掘して、その発掘品から人類について研究する学問。一番イメージがつきやすいとおもう。
4、言語人類学
言語の違いから人類について研究する学問。SVOとSOVの構造の違いはこのような差異があるのではないかとか研究してるみたいです。

で、まぁ僕はこの中の文化人類学の初めの初めを学んだわけなんですが、この分野をなぞるうえで欠かせないキーワードを先に紹介します。

フィールド・ワーク:実際に調査対象者に調査をする事
参与観察:外側から観察するだけでなく、その立場に入って同じことをしながら観察する事
エスノグラフィー:研究論文に近い。調査記録とそこから考えられる考察を書いたもの。
質的調査:アンケートのような数による統計調査ではなく個別調査を重要視する調査方法。イメージがつきづらいと思うので後に記すレポートでイメージをつかんでください。

この授業では主に文化人類学がどのような歴史を辿って、現代ではどのような問題を抱えているのかという事を中心に授業が進んでいったわけなのですが、授業を通して非常に意外だった事が1つあります。

それは

文化人類学を学ぶという事は、調査方法について学ぶことであり、ぶっちゃけ調査対象者の文化などについてはあまり重要視されていない。

という事実です。

えっと、分かりやすいかどうかは置いておいて例えると、「数学」学という学問分野は数学についての知識(幾何とか、この方程式の解き方とか)よりも、数学をどう学ぶのかを学ぶ(どう数学を学ぶのかが一番適切なのか研究する)学問といったかんじです。

これは個人的に非常に興味深く学べた理由の一つでした。なぜなら、僕は昔から勉強法とか、how to本とかの、ある一つのものをメタレベルで捉える事に魅力を感じるからです。

実際に授業内容でどんな事やったのかという事は以下のエントリを参考にしてください。ノート晒してます。

現代人類学の諸問題
現代人類学の諸問題2

じゃあ実際に素人がレポートしてミニエスノグラフィーを書いてみたらこうなったというのを晒したいと思うんですが、その前に書くにあたって非常に役に立った本を紹介しておきます。

フィールドワークの技法と実際―マイクロ・エスノグラフィー入門


異文化の学びかた・描きかた―なぜ、どのように研究するのか (SEKAISHISO SEMINAR)


この2冊は人類学専攻の友人にお勧めされた本なのですが、素人が「じゃあ実際どのようにして、エスノグラフィーを書き始めればいいの?」という点に、問いのたて方、調査の方法、調査からの考察のまとめ方としっかりと答えてくれてる良書でした。

あとは実際の人類学者の本を読んでおくと、どのように描くのかというイメージがつきやすいと思います。僕が読んだのはこの本。


では以下にそのレポートを公開したいと思います。あまりなじみのないと思われる質的調査がどのように描かれるのかに注目しながら読んで頂けると幸いです。

はじめに

 このレポートでは大学近くでの昔ながらの居酒屋の飲みの文化についてのレポートを記す。具体的なリサーチクエッションは「昔ながらの居酒屋における会社員のグループの飲みではアルコール飲料の注ぎ方が会社内での序列を反映しているかどうか」である。

 課題資料であったSTEPHEN R. SMITHのDRINKING ETIQUETTE IN A CHANGING BEVERAGE MARKETによると、日本の飲み会の源流にはMaussian ”gift”の文化があるという。つまり、自分自身に酒を注ぐのではなく、他人に酒を注ぎ、そしてその返礼として他人から酒を注がれる文化があると指摘している。彼によるとこの返礼文化による飲み会のおかげで、社会的位置が違う人々でも友好的な関係を築く事が出来るとしている。ただし、この資料が書かれた当時では、そのような社会的な関係性を構築するための飲み会だけでなく、一人で飲んだり、友人と気軽に飲んだりと、より個人的な飲み会が開かれるようになっているとも記されている。

 このレポートはこの資料で言及されている事を踏まえ、社会的な、境界性をつなぐための飲みというのが未だに存在しているのか。そして、存在しているとするならば、本当に返礼文化が中心となって飲みが行われているのかを検証したいと思い、先述したリサーチクエッションをたて観察、検証を行ってみた。
 

調査手法・調査理由

 私がこのレポートでフィールドワークを行ったお店は***(一応伏せておきます)というお店である。私がこのお店を実際に調査対象にした理由は以下の3点である。
 
 1点目、店内に仕切りがなく調査観察をしやすいということである。A店の中の概図を図1に示す。塗りつぶしになっている部分は基本的に移動可能な椅子である。また長方形型のテーブルもこの図の下部ではくっついてはいるが基本的に移動可能であり、お客の人数に合わせてテーブルを離したりする。この図を見ても分かるように***食堂は普通の居酒屋にありがちなお客ごとをしきる壁のようなものは一切存在しない。先述したテーブル間の隙間だけが客通しの境界となっている。そのためどこの場所に座っても、他グループの飲みの光景が詳しく観察することができるだろうとの判断を下した。これが***食堂を観察の場にした理由の一つである。なお便宜上、左上のテーブルの周りをAコーナーと呼び、横のカウンターの席をBコーナー、下のテーブルの左側をCコーナー、右側をDコーナーと呼ぶこととする。

 2点目、A店の歴史が古く、常連の客が多いため、観察対象である会社員のグループがA店を初めて利用しているお客であるという可能性が低いだろうという点である。A店はチェーン店のお店ではなく、店主によると約40年前から営業しているという。今回の調査は会社員のグループの飲みは先行研究のときに触れたフォーマルな飲み会の様子ではなく、日常的に行われている飲み会での様子を記したいと考えていた。そのため初めてお店に入るといったファクターは「会社員のいつもの飲み会」という調査対象からは除外したいと考えたため、A店を利用した。

 3点目、私自身が日ごろからA店を良く利用し、店員さんとのコミュニケーションがとれるため、調査依頼が出しやすい点が挙げられる。A店のオーナーは60前後の初老の女性であり家族での経営をしている。ホールでのレジや、料理の配膳、テーブルの清掃等は全て彼女が行っており、彼女は客からは「おばちゃん」か「おかあさん」と呼ばれている。私は部活での飲み会がA店で行われる事が多いことから、彼女と仲良くなり、今回の調査を依頼することになった。彼女は快く今回の調査に承諾をしていただいた。以後、彼女の事はおばちゃんと呼称する。

調査記録

 調査は5月中旬の金曜のとある日の8時半頃から開始した。私は図のCコーナーの場所に着席し、ポメラと呼ばれる電子メモ(客観的にみると電子辞書のように見える)と、英書を広げ、課題をやっている大学生を装った。こうした理由は調査対象に普段通りの飲み会というものを行ってほしかったため、調査対象の行動がその場でメモされていると思われないようにするためである。その時点ではBとDコーナーに客はいたがどれも1人であったため調査はしなかった。

 9時頃に3人のスーツ姿の会社員が来店し、Aコーナーに着席したため観察を開始した。名前が分からなかったため鈴木氏、佐藤氏、山田氏と呼ぶ事にする。鈴木氏が一番年上のようであり、佐藤氏と山田氏は年齢的には鈴木氏より一回り低く見えた。また見た目は同じような年齢層に見えたが、会話を聞いているうちに佐藤氏が山田氏を呼び捨てで、山田氏のほうが佐藤氏を先輩と呼称していたので、序列的には鈴木氏、佐藤氏、山田氏のようであると分かった。

 まず、彼らが座るなり佐藤氏が「おかあさん、とりあえずビール瓶1つ」とビール瓶を頼み、おばちゃんがビール瓶を用意している間に、佐藤氏が他の2人に何を食べたいかを聞いていた。二人がメニューをみて答えた少し後にビール瓶をおばちゃんがもってき、そのビール瓶を佐藤氏が受け取りながら先ほど2人から聞いた料理の注文を口で伝えていた。山田氏は佐藤氏が注文を言っている間にビール瓶を彼の手から受け取り、鈴木氏に注いでいた。この時、鈴木氏はビールコップを片手でもち、机の上に置くのではなく、空中でビールを注がれる形にしていた。続いて、山田氏は佐藤氏のコップにも同様にビールを注いだ。その後、佐藤氏がビール瓶を山田氏から取り、山田氏のコップに同様に注いだ。全員のコップにビールが注がれ終わった後、彼らはささやかな「乾杯」の掛け声とともにコップをぶつけ合った。そしてその後、各自のグラスに口をつけ、ビールを飲み始めた。
 
 鈴木氏が一番飲むスピードが速く、一回目の乾杯の後でコップを空けていた。すぐに山田氏はビール瓶を持って鈴木氏のコップに注いでいた。これから、料理が運ばれてくるまでの間2回、鈴木氏がコップを空け、1回佐藤氏がコップを空けたが全て山田氏が注いでいた。ただし、ビール瓶が空になり新しいビール瓶を注文するときに店員に依頼したのは佐藤氏であった。そしておばちゃんが配膳してくるものも全て佐藤氏が受け取っていた。

 その後、料理が運ばれてくるとビールを飲むスピードが収まり、談笑が中心になってきた。話していた内容は会社の取引先がどこならば会社の中のだれが得意であるといった会社の内輪の話であった。食事中のビールを注いでいた人は先ほどとは違い、山田氏だけでなく佐藤氏も注ぐようになっていた。山田氏は注がれると必ず、「あ、すいません」や「ありがとうございます」と敬意を示す言葉を発していたのが印象深かった。

 その後、だいたい10時過ぎぐらいになり、料理もだいたい食べ終わったころになると、ビールを注ぐのがほとんど佐藤氏になっていた。それまでは見られなかった自分へのコップへも自分で注ぐようになり、ビール瓶はテーブルの上にあるか、佐藤氏が持っているかのどちらかであった。11時近くになったころ、鈴木氏が「じゃあ、そろそろお暇するか」といって財布を取り出すと残りの2人もそれに従い、佐藤氏が「おかあさん、会計お願いします」といって値段を確認後2人からお金を集め、清算していた。その後、3人とも***食堂から出て行った。以上がこのフィールドワークで観察された内容である。

考察

 以上の観察から私なりの考察を記したいと思う。

 昔ながらの居酒屋における会社員のグループの飲みではアルコール飲料の注ぎ方が会社内での序列を反映しているかどうか。これに対しての私の結論は飲み会の前半部ではイエスであり、後半になるに従って個人のパーソナリティーに依存するようになるである。
 つまり、飲料の注ぎ方は飲みの前半では課題資料にもあったような役職などの役割にのっとった注ぎ方、社会的飲みの傾向が強いが、飲みの後半になるにつれて個人的飲みの側面が強くなるという事である。

 昨今では個人的飲みと社会的飲みが完全に分離されているわけではなく、個人的飲みが許容されてきたからこそ、社会的飲みの後半部に個人的飲みの傾向、年齢や序列に関係なく注ぎたい人が注ぐという傾向が出てきているように感じられる。

 これは観察のときに佐藤氏が序列でいえば2番目なのに、飲みの後半になるとビールを注ぐ役を引き受けていた事から推測している。佐藤氏がなぜそのような役回りを引き受けていたのだろうか。私は観察して佐藤氏は人とコミュニケーションを取るのが好きで、そして人の面倒を見るのが好きな人間なのだろうなと漠然ながら感じた。こう感じさせる事は彼の年齢や役職とは直接関係なく、彼自身の性格に由来するものであろう。

 日本における飲みが上下の境界を曖昧にする事によって関係性を円滑にしてきたとするならば、このように人間関係の円滑化の方法が役職などの役割よりも個人のパーソナリティに頼るようになってきた事は非常に興味深い事のように感じられた。

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このレポートの評価はBであり。担当教授からのフィードバックは以下のようなものでした。

質的調査法としての臨場感は伝えられているし、仮説にユニークさはある。
ただし実際の調査例が少なすぎる。少なくともあと1つは調査内容が書かれていれば説得力の持った仮説になったであろう。同様に先行研究があまりなされていないのが残念であった。

うーん、確かにその通りですね。

このエントリはここで終わりますが、少しでも人類学って何なの?と疑問に思った方の道標になれたのなら幸いです!